2013.1.14
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復活!CP/M ワンボードマイコンでCP/Mを!
CP/MがTK−80互換のワンボードマイコンの上で復活します
ND80ZVとMYCPU80の上でCP/Mが走ります

[第293回]


●ロジアナ波形の不思議を解明

前回はカメレオンUSB+ロジアナで観測したデータバスのD1の信号波形が、74HC04の入力側と出力側で、どうにも納得できない波形になっていることについて書きました。
最初は、ひょっとしたら74HC04が壊れているのではないか、あるいは74HC04の出力側が他の信号とショートしているのではないか、などとも考えたのですが、やがて納得のいくあるひとつの結論に行き着きました。

きっとそうであるにちがいない。
この奇妙な現象を説明するには、その他には納得のいく理由は考えられない。
しかし、そこまでは単なる推理、推論に過ぎません。
やはり実際にこの眼で確かめて、実証する必要があります。

さて。
皆様は、その理由が何であるか、お分かりになりましたでしょうか。

それを明らかにするためには、ロジアナの波形をいじくり回しているだけでは、埒が明きません。
そこでオシロスコープの登場です。
いまどきはオシロスコープもみなデジタルになってしまっているようでありますが、私は今もアナログオシロスコープを使っております。

今も使っておりますのはソニーテクトロニクスの100MHz2現象ストレージオシロで、もう20年以上使っています。
購入価格は忘れてしまいましたがめちゃめちゃ高かったという記憶があります。
さすがに最近はときたま不調なときもありますが、やはりオシロはアナログに限りますですねえ。
たとえばデータバスの断線やショートなどを探るときなど、アナログオシロのブラウン管に投影される微妙な波形が手がかりになることがよくあります。
ここをデジタルにされてしまったのでは、さっぱりカンが働かなくなってしまいます。

近年はデジタル万能の様相を呈しておりまして、何でもデジタルというのが幅を利かせております。
とうとうテレビ放送までデジタルになってしまいました。
確かにコストとか情報量とか扱いやすさとかといった利点はありますでしょうけれど。
それでは、デジタルには欠点はないのか、といいますと、非常に大きな弱点があります。

それは。
デジタルはあくまでロジックICの回路を通した後のものしか見ることができないということです。
ことにそれは測定器では、場合によっては、致命的な弱点ともなります。
ま。
しかし、オシロスコープもデジタルになってしまった今となっては、それを言っても繰言でしかありませんでしょう。
職人のカンに頼る時代はとおの昔に過ぎてしまったのですよねえ。

あ。
繰言はそのくらいにいたしまして、本題に戻ります。
今回の問題は、まさにそのデジタルの弱点が原因でした。
ロジアナがデジタルであったところにそもそもの原因がありました。
いえ。
もっと正確に言えばそれはロジアナのせいではなくて、そのロジアナの特性を正しく認識していなかったこの私のせいでありました。

ことを明らかにするために、まずは前回お見せしました回路図と、ロジアナの波形を下に再掲いたします。

こちらが回路図です。
カメレオンUSB+ロジアナのプローブ00を74HC04のpin11に、そしてpin10にプローブ01を接続しました。


こちらがそのようにして測定をおこなったロジアナ波形です。

プローブ02にMREQを、そしてプローブ03にM1を接続しました。
この波形で、前回指摘しました問題点は、
3800nsと4800nsのあたりに、プローブ00(74HC04pin11)では細かいパルスが観測されているにもかかわらず、その出力側、プローブ01(74HC04pin10)にはそれに対応する反転波形が観測されていない、という点でした。

その謎を解明するために、オシロスコープでも同じ信号を観測してみました。
下は上のロジアナ波形と同じ信号をオシロスコープで観測したときの写真です(2現象オシロですから観測したのはプローブ00とプローブ01の信号のみです)。
ロジアナ波形の図とでは水平方向のスケールが異なっていますが、セクションの間隔はどちらも200ns(0.2μs)で同じです。
実は、CPUのアドレスバスやデータバスのように激しく変化する波形をオシロスコープで観測するのはなかなかに難しいのです。
この写真は試行錯誤の末にやっと捉えた会心のワンショットです。


上(CH1)が74HC04のpin11の入力信号(D1)で、下(CH2)は74HC04pin10の出力信号です。
この写真と同じ範囲を、さきほどのロジアナの波形に水色の四角で囲って示しました。
そのようにして両者を比較してみますと、ロジアナ波形のプローブ01とオシロスコープのCH2の波形は大体一致していることがわかります。

すると問題はロジアナ波形のプロープ00とオシロスコープのCH1の波形にしぼられるようです。
オシロスコープのCH1の波形をみますと、細かいぎざぎざした波を伴いながらゆっくりと上昇していっています。
そしてその波がちょうど2.5Vを越えたあたりで、CH2がHからLにストンと落ちています(オシロスコープの入力は×10ですから垂直目盛は2Vに読み替えます)。
この波形を見る限り、74HC04は全く正常に働いています。

それでは、ロジアナ波形の方はどうでしょうか。
ロジアナ波形のプローブ00の3800ns近くに見える細かいパルス波形は、オシロスコープでは左端から0.2μsにある最初の縦線とその次の縦線の間あたりの位置に相当しています。
オシロスコープのCH1の波形は、そのあたりで大きく上下しています。
どうやら、この波の動きがプローブ00のパルス波形になったようです。
どういうことだかお分かりいただけましたでしょうか。

原因はHCMOSのスレッショルド電圧(1/2Vdd=2.5V)と、カメレオンUSB+ロジアナのスレッショルド電圧の違いにあったのです。
オシロスコープの波形から見ると、カメレオンUSB+ロジアナのスレッショルド電圧は、74HCなどの1/2Vdd=2.5Vよりも低く、大体1.5V近辺にあるようです。
そのために74HC04ではまだLレベルにある入力信号でも、ロジアナの入力信号ではHレベルとして捉えてしまったのです。

ロジアナ波形だけを見ていると、74HCゲート回路の出力が異常に遅いように感じられてしまいますが、こうやってオシロスコープの波形を見てみますと、D1がLからHになる速度はかなりゆっくりしていて、2.5Vを越えるまでに200ns以上かかっていることが確かめられます。
この間のD1はオープンコレクタ出力と同じで、プルアップ抵抗がラインの浮遊容量や寄生容量を充電しつつHになるため、それなりの時間がかかります。

これに対して、MREQ、M1などの制御信号はLからHになるときでもオープンコレクタ出力ではありませんから、上のケースのような遅延は発生しません。
データバス信号でもCPUやメモリからH信号が出力される場合には、やはりオープンコレクタ出力ではありませんから、上記のような遅延は起こりません。

上記のように信号がLからHにゆっくりと変化する場合には、その信号がロジックIC入力のスレッショルド電圧に達して、H信号として認識されるまでに時間がかかります。
74HCのスレッショルドは1/2Vdd=2.5Vですが、カメレオンUSB+ロジアナのスレッショルドはそれよりもかなり低く、大体1.5V近辺らしいということが、上のオシロスコープでの観測から明らかになりました。

ロジアナの波形だけを見ていると、74HC04の入力側の信号がすでに変化しているのに、出力側の信号がそれについていかないように見えてしまうのは、ロジアナとHCMOSのスレッショルドに差があったためでした。
ロジアナ波形だけでは一見矛盾しているとしか思えない奇妙な観測結果でも、このようにオシロスコープを通してみますと、当たり前のことであるのがわかります。

ということで、ガッテンしていただけましたでしょうか。

あ。
そうでした。
あのことも。
[第286回]で、データバスにCPUから出力されたHレベルの電圧信号が、ダイオードを通じてプローブ05のゲート出力に流入して、その結果Lレベルであるはずのゲート出力をHに押し上げてしまっているらしい、と書いたあと、「Z8S180のデータ出力端子にHCMOSの出力を1/2Vddにするほどの力があるとは思えないのだが」、と疑問に思うと書きました。
おそらくこの場合にも実際には1/2Vdd(2.5V)ではなくて、それよりも低い電圧(多分1V〜1.5V程度)に浮き上がったのではなかったかと思われます。
まあその程度のことならば、あってもおかしくはないかと思います。
あ。それでもかなりの電流が流入していることには間違いはないと思いますからゆめゆめ油断はできません。
だからこそ[第291回]でそのような信号の衝突を回避するための回路の変更を行なったのでした。

ああ。
誤解を避けるために一言付記いたします。
今回の問題は決してロジアナが悪い、ということではありません。
また、測定に用いたカメレオンUSB+ロジアナが劣っているということでもありません。
何回も書いておりますように、カメレオンUSB+ロジアナは超安価でありながら、非常な優れものであります。
ただ、今回はっきりしましたように、カメレオンUSB+ロジアナのスレッショルドは一般的なHCMOSのスレッショルドよりも低いために、その測定結果が回路の動作と食い違って見えることがある、ということを知っておいたほうがよい、ということは言えると思います。

これにて一件落着です。

が。
まだ続きがあります。
それにつきましては、また次回にて。

ワンボードマイコンでCP/Mを![第293回]
2013.1.14upload

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